理工学部
教授 高木 浩一
電気エネルギー工学、プラズマ工学
岩手大学理工学部 高木 浩一 教授らの研究グループによる、日本学術振興会から2019年に採択された「科研費 基盤研究(S)」の研究成果を基にした英語雑誌(Reviews of Modern Plasma Physics, Springer)への掲載論文が、2023年に最もダウンロードされました。
本研究は、電場?プラズマ作用場創出において、(1)パルスパワー技術を基礎とした高精度の時空間制御の実現、(2)植物の活性制御やその機序解明、(3)鮮度保持?食品機能性制御およびその機構解明 の3点からプラズマ農業?食品分野の学術深化?世界先導を目指したものであり、社会的にも学術的にも意義の高いものとなっています。ダウンロード数がトップとなったことからその関心の高さが改めてうかがえます。
本研究により、プラズマ農業?食品分野の研究者のためのインフラ的な成果(電源開発、時空間制御プラズマ反応場の創成)や植物や食品と時空間変化する電場の相関性といった新たな学理を立ち上げるに至りました。世界先導に関して、Nature Springer社からの専門書の発刊や、レビュー論文の掲載など、社会的にも、学術的にも意義の高い内容です。
高電圧?静電気現象は、農業では品種改良(育種)、また農薬の静電散布などに用いられてきました。水産業では、蓄養での環境保全や漁獲後の鮮度維持に、また冷凍?解凍プロセスでの利用で、食品分野でも、クリーンな環境維持(静電気によるダストやカビの捕集)などで利用されており、関連製品も複数のメーカーから販売されていました。
近年では、新たに植物の発芽制御および生長促進、担子菌(きのこなど)での子実体形成促進、農産物?水産物など生鮮食品の鮮度保持、電界などによる食品機能性向上および発酵?酵素反応制御などの研究が進められています。これらは農工融合領域研究で新しい学際領域を日本から発信できる可能性が高く、現在、農工融合領域で多くの研究成果が報告されていますが、その大半は実験事実に基づく報告や、装置開発に関するもので、電場やプラズマが植物の生体面に及ぼす効果について明確な説明が可能なモデルは構築できていませんでした。
本研究は以下の項目1~3について行い、電場やプラズマが植物生理面に与える効果を明らかにしました。
電界?プラズマ作用場の創出およびその時空間制御では、磁気圧縮(MPC)やSiC スイッチングデバイスを用いた本研究に適したスペック(ナノ秒パルス、高電圧?高繰り返しでの出力など)を有するコンパクトなパルスパワー電源、またそれらとインピーダンス整合がとれている時空間制御が可能なプラズマ源を開発し、ナノ秒、マイクロスケール反応場創出といった、高精度に時空間制御された反応場創生を実現する。
電界?プラズマによる植物の活性制御とその機序解明では、項目1で創生する反応場を活用して、パルス電場やプラズマ照射後の種子や植物体のレドックス変移やエピジェネティクス、遺伝子発現の解析などを通して活性化の機序を明らかにする。
電界?プラズマによる農水産物の鮮度保持?食品機能性制御とその機序解明では、パルス電場やプラズマ照射による液状食品の殺菌?静菌効果の検証(ファージ不活性化、芽胞不活性化)、食品保管庫内の空中浮遊菌に対する静菌?殺菌効果、エチレンなど植物ホルモン作用物質の発生抑制と分解を中心に、農産物(青果物)鮮度保持効果の把握と機構解明を進める。魚介類に対しては、酵素や発酵微生物、膜タンパクなどの立体構造の変化(二次構造のα へリックスからβ シート構造への変化など)や、それに伴う機能性変化(酵素活性、発酵活性など)を中心に、鮮度保持機構や食品機能性への効果?機構解明を進める。
今回の研究を通して電場やプラズマが植物の各生長過程で生理面に与える効果の作用機序の理解が進んだこと、また生鮮食品の鮮度維持や食品加工にお